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徒然な視点

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by yoshiaki sato

ドサ健

 久しぶりに阿佐田哲也さんの本を読み返している。
阿佐田さんの本は全巻持っていて何度も読み返しているので、筋が完全に頭に入ってしまっているのだが、文体が恋しくなったのと、なんだか自分を取り戻すことができるような気がして数年ぶりに読んでいる。
麻雀放浪記をはじめ、どれも登場人物が魅力的で、一番好きな小説を決めるのは難しいが、あえて言うなら
『ドサ健博打地獄』だろうか……。
麻雀放浪記に登場するドサ健だ。
上州虎、出目徳、女衒の達兄ィ、どれもモデルとなった人物がいたからこそ、くっきりとしたキャラクターを描き出せているのだろうけど、中でも「上野(のがみ)の健」こと「ドサ健」は魅力的なキャラクターだ。
映画のインパクトが強かったので、本を読んでいてもドサ健は鹿賀丈史さんが浮んでくる。
ドサ健_b0024261_2124516.jpg

「あれ、また上がってらぁ。こいつぁ珍しいこともあるもんだぜ」と言って、天和を上がって死んでしまい、カミさんの待つ掘っ立て小屋のそばにゴロゴロと死体を捨てられる出目徳は高品格さん以外には考えられない。
阿佐田さんの小説に登場する人間たちは、それぞれ個性的な勝負との関わり方をする。
そこに阿佐田さんの哲学があるのだが、人生においての勝敗は収束するという理論が基本になっている。
勝ち続けるやつも負け続けるやつもいない。勝ったり負けたりするから「勝負」なのであって、大勝すればその分どこかで何かを失うのだ。
大きな犠牲を払いながら勝負にこだわる人間像が魅力的なのだと思う。
勝ったり負けたりすることは他に比較するものがないほど楽しい。
だからのめり込み、全てを賭けてしまう人間まで現れる。行き着く先は廃人であり、犬死にだったりする。
でもドサ健は死なない。
最後の最後に負けとわかったらトンズラする。そしてまた這い上がってくる。

坂上忍主演の『ドサ健麻雀地獄』というDVDシネマを見たことがあるが、まったくつまらなかった。
ドサ健はあの時代にいてこそ魅力的なのだ。現代に置き換えてしまっては存在し得ない。
最後に刺されて死んでしまうのもダメだ。
ドサ健は死なないのだ。
同様に、阿佐田さんが亡くなってから作られた『麻雀放浪記2』などもまったく迫力に欠けていた。
阿佐田さんが生きていたら納得しなかったはずだ。
『ドサ健博打地獄』は、鹿賀丈史さん主演で映画にしてほしかった。
ひりひりするような冷たい汗をかきながら、ぎりぎりの博打を打つドサ健は滅茶苦茶カッコイイ。
ドサ健_b0024261_222824.jpg

by grid303 | 2009-11-17 21:40 | Others