JAPAN'S No.1 ROCK'N ROLLER

 金曜日は取材で1日名古屋にいて、20:10発の新幹線で東京に向かった。
チケットに記された座席に座り、フゥーっと一息ついて電光掲示板を見ていると、桑名さんが他界されたというニュースが流れた。7月に意識を失って以来、覚悟はしていたが、なにかまたひとつ心の中の石がころっと転がり落ちたような感じがした。

 18歳でMASAHIRO KUWANA & TEARDROPSのスタッフとして仕事を初め、19歳からは専属ローディー(当時はまだ日本の音楽業界にその言葉はなかったが……)としてツアーを周り出し、以来10年以上ステージディレクター、制作担当として桑名さんのステージに関わった。
 数え切れないほどのステージやテレビ番組の想い出が、車窓に流れる夜景と重なって脳裏に蘇る。
 思えば、スタッフワークとは何か、スタッフにとってのミュージシャン、スターとは何か、つきつめて言えば、エンタテイメントとは何か、という今の自分の根源に存在する核のようなものを桑名さんから体験的に教えてもらった気がする。
 ミュージシャンに限らず、今までに遭遇してきた人間の中で、彼ほど規格外と言うか、型破りと言うか、多分日本人には珍しいほどのスケール感を持っている人はいない。ツアースタッフに加わった頃、桑名さんはまだ25歳だったことが、今考えると驚きだ。
 当時の想い出を語れば切がないのだが、文章とはいえ、今もエンタテイメントに関わっている身として、忘れることのできない想い出がいくつかある。

 1980年頃、「夜のヒットスジオ」に出演した時のこと。
 当時歌っていた曲は桑名さんのギターから始まる曲で、桑名さんは歌う前に司会の井上順さんと吉村真理さんの間で話をしながら星型のエレキギターのボリュームつまみを上げてツインリバーブから音が出ることを確認していたのだが、それが出ない!
 CMの間にセッティングをし、ボリュームつまみさえ上げればその曲のイントロに使う音色が出る状態にしてあったので、カメラの外にいて真っ青になった。
 画面の中では司会の二人と話しながら、「あれっ?でーへん」みたいなことを言っている。
 当時はまだ若くて視力がいいので、ギターにつながったシールドからエフェクター、アンプまでのラインをよーく見てみると、エフェクターの出口でシールドのプラグが抜けている!
 脇にいて舞い上がっているADにつなぎに出ていいかと確認し、3人の後ろをするっと通って抜けていたプラグをエフェクターに差し込んだ。その瞬間、ツインリバーブからエレキギターをピックで叩く歪んだいつもの音が鳴ってくれ、無事に演奏に入ることができた。
(これはとうとうぶっとばされるかもしれないな……)と思った。
 しかしトラブルの原因は、随分前にもう亡くなってしまったが、ギターの新井さんが立ち位置に向かう時にその部分を踏んでしまったことだと桑名さんに謝ったのだった。ぶっとばされなかったことよりも、とにかく生番組を無事終えられたことにほっとして胸を撫で下ろした。
 20歳の頃は、桑名さんのギターだけでなく、バンド全員のギター&ベースをチューニング・セッティングしていたから、コンサートの時は一人で本番前に12~13本のギター&ベースをチューニングしなければならないことも多く、そんな日は最後のギターのチューニングを終えると作業を始めてから30分以上が経っていた。最初にチューニングしたギターは、その日その場所の温度や湿度で微妙にチューニングがくるっていることも多い。
 それから他人のギターをチューニングする方法を研究した。
 ギターという楽器はフレットを指で押さえる強さによって音程が微妙に変わるから、いくらチューニングメーターや自分の指でチューニングしても、いざミュージシャンが持って弾きだすと心地よい音程になっているとは限らない。  
 だから、そのミュージシャンのそれぞれの指の癖を把握し、最初に弾く曲に合わせたチューニングをしなければだめだということに気がついた。
 TEARDROPSは、桑名さんを入れて3人のギタリストと1人のベーシストがいたので、4人の癖を完全に把握する必要があった。桑名さんがメインで使っていたB.C.RICHのエレキギターは、3弦をほんの少し低めに、1弦をほんの少し高めにチューニングすると、本人が弾いたときにけっこうイイ感じになった。でもそれは弾くギターによっても曲のキーによっても違ってくる。
「MASAHIRO No.5」というアルバムを出した後のツアーでは、客席が暗くなり、無音の中で緞帳が上がると、ステージのセンターでポーズを決めている桑名さんのエレキギターでイントロが始まる作りだった。1ベルが入り、バンドメンバーが緞帳の中でスタンバイする。1曲目に使うギターのストラップとネックを持って桑名さんに渡すと、ストラップに頭と右腕を通した桑名さんは、緞帳が上がる寸前にボリュームつまみを上げ、緞帳が上がるとそのままイントロのリフを弾きだすのだ。
 セッティングやチューニングを信頼してもらっていたことはとても嬉しいことであったが、ヒットスタジオやベストテンなどの生番組同様に、この時のツアーは、毎日1曲目が始まるまでヒヤヒヤの緊張だった。もし桑名さんのギターにトラブルがあるとコンサートはド頭でぶち壊しになってしまうのだから。今でもあの緊張感は忘れられない。

 時は経ち、リズム&ブルースのカバーアルバム「ROCK'N SOUL SPECIAL」をリリースした時のこと。東京厚生年金ホールでコンサートがあった。
 22か23歳の頃だったと思う。ちょうどその頃から桑名さんのステージディレクター(いわゆる舞台監督)を務めるようになっていた。この日、2000人も入る大ホールで、その駆け出しの舞台監督は歴史に残る大失敗をやらかした。
 やはり緞帳の中でメンバーがスタンバイし、客席が暗くなると、演奏が始まってイントロで幕が上がるという設定だった。本来の手順は、5分前に袖の操作盤にいるホールの舞台担当者に1ベルを入れてもらい、イベンターの女性に開演アナウンスをさせ、メンバーを楽屋からステージの誘導し、演奏の準備が整ったら客席のコントロールブースにいるPAチーフと照明チーフにインカムでスタンバイを通知し、客席の照明を落としてもらってからバンドにQUEを出し、袖の操作盤に緞帳アップのQUEを出す……という段取りだ。今考えると難しいことは何もない。
 しかし、駆け出しの舞台監督は、バンドメンバーに神経を使うあまり、コントロールブースにスタンバイを通知せずにバンドにQUEを出し、緞帳を上げてしまったのである。
 この状態を満員の客席から見るとどういうことになるのか……。
 1ベルが入り、「間もなく開演いたします」というアナウンスが終わって2~3分経つと幕の中でモコモコとした音が鳴り出し(QUEを出していないので当然PAはまだ生きていない)、幕が上がると同時に客席が暗くなってPAスピーカーから急に大きな音が出だした……、という、はっきり言ってなんじゃこりゃの状態。幸い、幕が上がってからは桑名さんとバンドのメンバーの活躍により、盛況の中で幕を閉じることができた。
 本番終了後に大先輩だったPA・照明スタッフにひたすら謝り、それから桑名さんの楽屋に誤りに行った。この日のためにリハーサルを重ね、気持ちの入った(それはこの日だけのことでないが)大事なコンサートの幕開けをぶち壊してしまったのである。(これはぶっとばされても仕方がないな……)と思っていた。
 ところが、ステージで演奏していたミュージシャンたちは冒頭の客席側のとんでもない状況は知るよしもなく、桑名さんもわかっていなかった。覚悟を決めて楽屋に行くと、終演後に客席から訪れていた友人ミュージシャンがちょうど、「頭のあれはなんやったや?」と話し、まだ汗びっしょりの衣装のままの桑名さんが「えっ? なに?」と答えているところだった。
 そこにいつもとは明らかに違う表情の舞台監督が「お疲れ様でした!」と言いに来たのだ。桑名さんと目が合った瞬間に平身低頭で「すみませんでした!!」と謝り、コレコレシカジカでと、自分のミスを説明した。
 なにしろまだ、ステージのボルテージが残っている状態だ。「なにしとんじゃ!ボケが!!」という展開になるかも知れないと思っていたのだが、桑名さんは笑いながら、「頼むわ。ホンマ」とひとこと言っただけだった。
 予想外に寛大な対応に、かえって申し訳なかったという気持ちが大きくなり、次のステージは絶対に完璧な段取りで仕切ろうと思った。そしてその後も桑名さんのステージディレクターを続ける道を選び、10年以上のお付き合いになった。あの頃、6歳も年下の駆け出しディレクターを大事にしてくれたおかげで、他のコンサートやイベントでもディレクション&演出の仕事ができるようになったのだ。スタッフとして育ててもらったようなものだ。感謝の念に絶えない。

 忘れられない想い出話をしだすと本当に切がないのだが、最後に桑名さんと会った昨年の10月某日は感動的な1日だった。
 新宿のライブハウスで、音楽業界のある大師匠の80歳の誕生記念パーティーが開催され、古くからの知人や友人が集まった。その日のステージディレクターを頼まれ、もう大分そういった仕事からは遠ざかっていたのだが、二つ返事でお手伝いさせていただいた。10年ぶり、20年ぶりで会う知人も多く、それだけでも感動的な日だった。桑名さんと会うのも10年ぶりだったろうか……。
 この日、桑名さんは、下田逸郎さんと二人で大師匠のために3曲ほど歌った。アコースティックギター2本のデュオといったところ。
 ほのぼのとした空気の中で始まった1曲目の『セクシー』も良かったけど、2曲目の『月の灯り』は絶品だった。作詞者と作曲者の二人が歌う『月の灯り』・・・・・
 30数年前にこの曲ができてから流れた時間が二人の歌には感じられた。会場にいた誰もが、それぞれの30数年という時間をかみ締めながら全霊を傾けて聞いているような、とても優しい空間だった。
 この日、桑名さんは「月のあかり」という焼酎の一升瓶を2本、お祝いの差し入れ用に持参されたのだが、楽屋でそのほとんどを自分で呑んでしまった。
「yoshiaki、結局自分で呑んでもうたわ(笑)」
 それが最後に聞いた言葉となった。
 あの日、会えてよかった。歌を聴けてよかった。

 品川で新幹線を降り、帰宅したのは22時をとうに回っていた。あれこれと文章を考えてみたものの、頭の中を流れ続ける想い出と石が転がり落ちた空虚感のせいでまったくまとまらなかった。
(今晩は作業をやめて献杯することにしよう……)
 『テキーラムーン』でも聴こうかと思ったが、ますます想い出が噴出してきて眠れなくなるのでやめにし、麦焼酎をストレートでただゆっくり呑んだ。

 最後はちょっと不自由な時間がありましたが、やりたいようにやる自分の生き方を全うされたことに敬意を表したいと思います。
 そして一緒にステージの仕事をさせていただいたことを心から感謝いたします。 
 桑名正博さん、ありがとうございました。
 ROCK & ROLL に合掌。
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1978年リリースの『TEQUILA MOON』
ジャケ写撮影は加納典明さん。当時、桑名さん25歳、加納さん35歳。


 ローディーをしていた19~21歳の頃に同行したツアーで、桑名さんが最後に歌っていた曲、ジャクソン・ブラウンの『ROAD OUT ~ STAY』
 自分で日本語に訳詩して歌っていた。
 これは、コーラスに金子マリさんや亀渕友香さんがいて、斉藤ノブさんがパーカッションで参加しているので、おそらく1979年末から80年にかけての「ROAD 80」というシリーズのどこかじゃないかと思う。だいたいTEARDROPSのメンバー以外にコーラス3人、ホーンセクション3人、パーカッションという編成だった。
 当時は今のように簡単に録音できる携帯グッズなどなかったから、誰かが持ち込んだカセットレコーダーで録られたものではないだろうか。
 出どこはともかくとして、音質も悪く音飛びも激しいが、よくこんな音源が残っていたものだと感激した。
 アンコールはいつもR&Rを2曲ほどぶちかまして客は総立ち、最高の熱気とボルテージの中で最後は『さよならの夏』などのバラードかこの曲で終わるのが、MASAHIRO KUWANA & TEAERDROPSのスタイルだった。
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by grid303 | 2012-10-28 02:11 | Others | Comments(4)
Commented by 朝旦那 at 2012-11-01 09:50 x
桑名さんは歌がうまかったし色気があった。テキーラムーンをダウンロードしよう。ご冥福を祈ります。
Commented by 朝旦那 at 2012-11-01 10:00 x
貴重な録音だねー♪
臨場感あるし、若い!
Commented by 長毛猫 at 2012-11-01 12:37 x
訃報を聞いて、その夜はひっそりと献杯するのだろうと思っていました。苦労はそれなりにあっても自分が楽しく働いていたボスが亡くなるのはとても寂しいことです。Whitneyの時がそうだった。そして一人でも多くの人に、故人が生きている時どれほど良い人だったか宣伝したかった。桑名さんは妹さんと仕事したことありました。R.I.P.
Commented by sato at 2012-11-02 00:55 x
カキコ本気でうれしいな・・・
桑名さんはオレにとってボスっていう存在じゃなく兄貴的な感じで、やっぱりSTARかな・・・
本当にエンタテイメントの根本的なことを体験的に教わったから。
この録音はデンスケかもな・・・(笑
んなわけないか。さすがにホールに持って入れないよね。
"TEQUILA MOON"と"MASAHIRO 2nd"は、今聴いても歴史に残る素晴らしいアルバムだと思う。まだ聴けてないけど・・・
あれが23歳とか24歳なんだから驚くね。できすぎてるな。
やっぱり70年代後半はROCKの想い出がつまってるね。


http://www.geocities.jp/grid303


by grid303

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